冬の景色 1/4ページ目 「めぐみちゃんも、二次会、一緒に行こうよ」 きょうは忘年会。1年にたった1度の宴会だった。年中無休の私の職場では、毎年暮れから年明けの2日間だけ休みになる。 忘年会の場所を出た時、同じ職場の木村さんが、そう言って誘ってくれた。 でも、私は素直に付いて行けなかった。 軽い女と思われたくなかったのかも知れない。 いつもそうだった。 私の職場は男ばっかりで、女性は私の他にパートのおばさんが二人いるだけの心細いものだった。 必然的に気を張っていなけりゃならなかった。 カプセルホテルの従業員なんてそんなものなのかも知れない…。 客の殆どは得体の知れないおじさんばかりだ。 強がって、いつでも気を張って生きていく習慣が身に染みついてしまっているのかも知れない。 支配人の木村さんには、密かに惹かれていたのに…私は誘いを断ってしまった。 そして、帰りの電車の切符を買っていた。 もしかしたら、木村さんが、 「二人っきりで」 と、言ってくれたら付いていったかしら? 私は自分に問いかけてみた。 でも、答えはNOだ。 そんな自分になれる訳がない…。 ため息が出た。 そう、いつでも私はため息ばかり…。 ちっとも前に進めない。 きょうの忘年会の席でも私は最初の乾杯のビールを口にしただけだった。 あとはウーロン茶を少しづつ飲みながら、その時間の殆どをみんなにお酌したり、つまらない話に相槌を打ったり、気を使うことばかりに費やした。 堅物で真面目で、無口なつまらない女と、周りに思われていることは判っていた。 でも、仕事に関しては負けん気があった。 パートのおばさんの様な安っぽい扱いをされたくない! という気持ちがあった。 駅を出ると自宅のアパートまでは、5分くらいだ。 でも、私はまっすぐに帰る気持ちになれなかった。 帰ったところで誰も待ってなんかいやしない…。 暗い部屋に明かりを灯して、冷たい部屋を暖める為に自分でストーブをつけなきゃ…。 そんな生活をもう3年も続けている。 来年で歳は29になってしまう。 どうしようもない空虚な時間だけが過ぎていく眠るだけの空間…。 私はそんな部屋にまっすぐ戻ることをためらっていた。 そして、自分のアパートとは反対側の方向に歩き出していた。 [ページ指定] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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