~
book

Come As You Are
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“巻頭歌”

君らしくあれよ

君はどこだい?

君らしくあれよ

腹の中で

君らしく

母親の心が怖いの?

君らしくあれよ

空と大地の区別もつかずに


・・・・・・・・


「ショパンは情熱的過ぎる。」

と彼は言っていた。

彼の瞳は宙を見ていた

見ていた?

いや、

彼の瞳は何も捉えていなかった。


ベートーベンの月光が鳴るこのカッフェで

僕らは互いに

目を合わせなかった。


「この曲を月光と称したレルシュターブには恐れ入るよ

僕にしたらこれは陽光だ。」

「全てに目覚めを

全てに目覚めを・・・・・・・」

「ねえ、聞いてるかい?」

「全てに目覚めを

全てに・・・・・・・」

彼は真理しか言わない。

彼は僕以外ともだちもいないようで

その唯一の友達の僕ですら

彼のことは多くは知らないのだ。


「宇宙人からしてみたら

この曲はどう聴こえるんだろうね?」

「我らは音楽という概念を持たない。」

曲が終わり

次はテンペストが流れだした。

それを合図に

僕らはいつも通り

席を立つ


僕らが話す時間は

このカッフェの

“月光”の流れる間と決まっているのだ。


「バイバイ。」

「サヨナラ。」


・・・・・・・・


しかし翌日から

彼は姿を現さなくなった。

その日はテンペストも聴いてみたが

やはり彼は現れなかった。

彼のアドレスも知らないことを

いま僕は初めて知ったが

不思議と不安感はなかった。

それよりも

ある想像がよぎったのだ

<少女がある花に名前をつける…>

この想像がなにを意味するのかを

僕は知らない

すべからく人というものは

不便である


スリーコード進行のロックみたいに

シンプルにできていたならば


そのときの僕は

宙を見つめていた。


彼はこうしたとき

どんなことばを

その口から吐き出すのか?


・・・・・・・・


もう朝だ。

インディアンのように

毎朝、祝祭的な死が訪れるということを

いまだに信じているぼくに

彼は

「君はインディアンじゃない。」

というだろう。



ぼくはひとしきり笑ったあと

クローゼットに向かった。

「今日は派手な服装をしよう。」

独り言は虚無に抗ったあと

霧散して消えた。


・・・・・・・・


今日のカッフェは空いていた。

チャイコフスキーの1812年が

ごくわずかにそのカッフェを彩っていた。

しかしぼくには

音量の小さい1812年に

なんの価値があろう?

とまたしょうもないことを考えていた

そう

思索とは

僕に決して“知”を与えはしない。


出されたココアは冷めきって

拗ねているようにも見えた。


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