土方本

■□夜明け前□■
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V 過去





「誓約…ですか」

土方より一回り身体の大きい沖田は、その大ぶりな身体を猫のように丸めながら、困ったような笑い顔をした。



俺は武士になって、近藤さんを日本一にしてやるんだ

そう、恥ずかしげもなく宣言する土方は、自身は農民の出でありながら、毎日のように道場で剣の腕を磨き、武士として天下に名を残すことを夢みていた。
否、残すのだと決めていたのである。



実際土方の腕は、言ってみれば喧嘩拳法で、技術的な面は「誰より秀でていた」とは言い難い。彼の剣は癖が強すぎた。

ただし、それは道場での試合の話であって、「試合」が「喧嘩」へと変われば、彼に勝てる者はなかなかいなかったのは事実だ。

近藤の道場で、頭一つ秀でた腕をもつ沖田も、この男に喧嘩で勝てる気はしなかった。


沖田は言わば「天才」の部類で、今や稽古をつけてもらったばずの近藤にも劣らぬセンスを発揮していた。

加えて彼には若さがあった。
好奇心と底なしの体力は、彼の腕にさらなる磨きをかけていった。


その沖田も舌をまく土方の才能は、彼の頭の回転の速さである。

土方にとって、勝つというのは、事実そのものよりも「いかにして」勝つかが重要だった。

それは剣術においてのみでなく、普段の生活そのものにも通じていた。





___________。

つまりはと言えば、だからこそ今沖田はここで困った笑いを浮かべている。


「うーん、まいったなぁ…いきなり誓約なんて言われてもなぁ」

「馬鹿言うなよ、俺達はすげぇ事をやるんだぜ。生半可な気持ちでやってたら務まんねぇだろうが、早く言ってみろよ」



女に劣らぬ白い肌、整った目鼻立ち、その美しい口から飛び出すのは、乱暴という名の無茶振りだった。

自分勝手な人だなぁ、と総司はもう何度目かのそれを思う。
それでも笑ってしまうのは、本来の土方の人の良さを知っているからであり、逆にそれが魅力のように見えてしまうからだ。


「じゃあさ、土方さんはどんな誓いをたてたの?」

「うるせぇな、人のもんなんぞ聴いて何になる。」

「えー。」



その当時土方は、近藤を天下一の武将にする、という構想を、いよいよ形にしてやろううともがいていた。
ほんの少しでも機会があれば、後先考えずに飛びつく程度の覚悟は出来ていた。

だから沖田に、同じ覚悟があり、志を共にするのならば、今ここで何か自分に誓約をたてろ、などと言うのだ。
なんとも土方らしい考えである。



春の日差しは穏やかで、のどかな午後をより一層際立てていた。

うつむいたまま、あれやこれやと独り言を呟いては、右へ左へ首をかしげてみたりと落ち着きのない沖田が、
決めた、とばかりに勢いよく顔をあげた。

手持ちぶさたで、庭に生えた草をむしりもてあそんでいた土方は、一瞬ひるんだが、すぐに目の奥を輝かせて、どうだ、と聞いてきた。


「私は、あんたとずっと一緒にいるよ。」


自信満々に告げる沖田に、土方はどういう意味だ、と言わんばかりに端正な眉を斜めにあげる。


「だから、この先どんな事になっても、私はあんたの意思に背くことはしない。」

「おい、そりゃ…」

土方が口を出すのをさえぎるように、沖田は真剣なまなざしを彼に向けた。

「土方さんはさ、近藤先生のことを本当に好きでしょう?私もそれは同じなんだ。近藤先生は太陽みたいな人だと思うよ。
あの人がいるだけで、その場が明るくなるんだ。あの人にならついて行きたい、そう思うんだ、みんな。
土方さんだってそうでしょう?だから近藤先生を日本一の、って言うんでしょう?」

すると土方は目を輝かせて言う。

「そりゃそうさ、かっちゃんはすげぇぞ。あの人はな、人を惹きつける特別な才能がある。
おまけに強え。こんなところにいちゃ勿体ねぇ人なんだ。」

まぁ俺もだけどな、と鼻をならした。

そんな、恥ずかしげも無く友を語るいくつも年上の土方を、まったくこの人は面白い、などと思いながら沖田は笑った。



「だからさ、私も土方さんと同志なわけでしょ?土方さんの為にすることは、つまり近藤先生のためでもある。」

「そしたら別に俺じゃなくても、かっちゃんのそばにいりゃぁいいじゃねぇか。」

「いやだなぁ、それは私なりの配慮だよ。
近藤先生について行きたいって思う人はいっぱいいるだろうけどさ、土方さんのその性格じゃあ、人から誤解を招くばっかりだ。
だから私が土方さんのそばにいてやろうっていうのに。」

からかうように言うと、土方はクソガキ、と呟いてそっぽを向いてしまった。
顔をそむける仕草は決して怒っているのではない、というのも土方の性格ならではである。


そういうのが誤解を招くって言うんだよ。



殴られるのを覚悟で沖田は笑った。

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