土方本

■□非力な強さと幸せの法則□■
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「副長ー?どこへ行かれるんですか?」


「ん?…ああ、ちょっと病院」


いそいそと支度を整えて出かける土方の後姿に、小姓である市村は「ああ」と納得しすると

「外、寒いんですからこれ来て行って下さい」

と、上着を渡す。


土方はそれを受け取ると、未だ寒さの抜けぬ空の下へと早足で向かった。



<非力な強さと幸せの法則>



ときは4月の最終日。

一ヶ月ほど前に官軍が函館に上陸してきてからというもの、戦ばかりの毎日が続いている。

怪我人は急増したし、そうでなくとも兵士達の疲労はピークに達していた。


そして、その戦いの中で、江戸にいた頃からの友人、伊庭八郎も再起不能の重症を負っていて。

現在戦線離脱した怪我人は函館病院に収容されていた。



伊庭が警備のために松前に行っていた頃より、こうして怪我を負って病院にいる現在のほうが会う時間が増えるとは。

なんとも皮肉なことである。



まともな治療を受けられない兵士達のうめき声の中を通り過ぎ、病院の一室に向かった。

部屋に入ると、伊庭は丁度ドアのほうを眺めていて、土方の姿を確認すると嬉しそうに少しだけ微笑んだ。



「なんだ、起きてたのか」

あまりの痛々しさに、何度見ても泣きたくなる衝動を堪えきれないが、それを悟られないようにわざとぶっきらぼうに言う。

「ああ、…毎日寝てるばっかりだから…眠くなんねぇよ」

かすれて聞き取りにくい声で、伊庭がへへ、と笑って見せた。



実際田村に聞いた話に寄れば、伊庭は鉄砲の音1つでも目を開けて、痛む身体を起こそうとしているそうだ。

そんな彼が、疲れていないはずがない。

もう被弾してから10日が経とうとしている。その間にも、ほぼ毎日戦は続いていた。



伊庭は伊庭で、嬉しさと申し訳なさの混ざった複雑な気持ちでいた。

戦争と軍議の合間を縫って、こうして見舞いに来てくれる旧友。

自分だって、相当に疲労がたまっているはずなのに、そんな様子は決して見せようとしない。



「…何笑ってんだよ」

「んー?…歳さん優しいな、と思ってさ」

何言ってんだ馬鹿、と笑って、土方は伊庭の横たわるベッドに腰掛けた。



「…で、どうだえ…?戦はまだ…続けられそうなのかい?」

「さてね、もう武器も金もねぇと榎本さんが嘆いていやがった」

「はは…総裁ってぇのも、大変だねぇ」

まるで他人事のように、冗談めかして笑う。

これも全て運命、こうなることはお互い分かりきっていたことなのだ。

どこまで抗えるか、それが今の二人の進む道。初めから、道は一本しかなかった。





「なぁ…、歳さん…」

「ん?」

「江戸は…楽しかったねぇ…」

「……な、なんだよ、急に…」

予想通りの反応に、伊庭は土方の目を見て笑った。

そしてまた、視線を天井に戻す。


「歳さん…ずいぶん悪ガキだったよなぁ…」

「お前にゃ言われたくねぇよ」

「あれ…楽しかったなぁ…」

「何」

「…花火。隅田川の…さ。行ったろう…?」



伊庭が、少し苦しそうに顔をゆがめた。

土方は慌てて伊庭の腕を握ったが、それ以上何も出来ないことがこの上なく悔しかった。


「無理するな」

「…へへへ…水…もらっても…」

「あ、ああ」


ベッドの隣に置かれた水差しを渡す。

土方に支えられて、伊庭は少しだけ身体を起こして水を飲んだ。

額に触れると、だいぶ熱い。


「少し熱があるな」

「あんときと…逆だねぇ…」

「…??」

「歳さん、熱があるのに…無理するから…」

「…お前…また人がせっかく忘れかけていたことを…」

土方は、思い出して渋い顔になった。





あれは土方の苦い思い出だ。

隅田川に花火見物に行ったはいい。

伊庭の金で屋形船を借り、女も乗せて、夜の華と食事を楽しんだまでは良かった。


しかし、土方は体調を崩していたのだ。

だが女のいる前でもあり、平然を装っていた土方は、あえていつもより多く食べ、飲んだ。

そして案の定、帰り際にはふらふらになり、伊庭に連れられて近くの宿で休養を余儀なくされたのである。




あのときの苦笑した伊庭の顔が頭に浮かんだ。

今とはかけ離れた、生き生きとした肌。

一目見たら忘れられないと評判の、透き通った瞳。




あのときの自分たちは、今こうしていることなど、予想もしていなかった。





「あんときのお前の心配そうな顔、面白かったな」

精一杯の皮肉。でも。

「…ひでぇや…あんただって…死にそうな顔…してた、くせに」

「う…うるせえよ、覚えてんじゃねぇよ、そんなこと」


顔を真っ赤にして反論する土方に、伊庭は苦笑した。

その顔が、一瞬あのときの顔と重なって見えて、不覚にも泣きそうになった。


「花火、ここでやったら綺麗だろうな、空気澄んでるし」

「いいねぇ…ちょっと寒いけど」


二人して、顔を見合わせて笑う。

決して実現は出来ない、叶わぬ夢。



後悔してるか、なんて聞かない。

そんなの、分かりきっている答え。


だけど、「過去は振り返らない」なんて格好つけているけれど。


そろそろ、過去を懐かしんでもいい頃かもしれない。


言って見れば、思い出に浸るなんていう「無駄な時間」も、


今の二人には、きっと大切な時間。


そして、最後に感じるのは後悔でなくて。





「おいらは…幸せもんだねぇ…」

そうつぶやく伊庭の声が、いつまでも土方の心に響いた。




FIN.



☆★☆★☆★☆★
癒し系の二人。
大鳥は一人だと癒し系だけど、土方と組むとただの阿呆鳥。(最低)
この人達は二人そろって初めて癒し系。
一人のときは修羅か悪魔か。。。

ていうか、タイトル、無駄に長くてごめん。
しかも意味わかんなくてごめん。
いろいろごめん。

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