1/1ページ目 白昼夢 晴れ渡った空の下、若い男達の声が響く。 いつもと変らない試衛館の光景。 歳三は一人、縁側に座して俳句を考えていた。 「_____」 この時間が好きだった。 風に舞って、目の前を花びらが過ぎていくとか 小鳥の声が、晴れた日を一層明るく映すとか… ……だというのに。 「ひっじかったさーん!!!!」 …風流心のかけらも無いこいつの声で、どうして現実に引き戻されなきゃなんねぇんだ。 「なんだ、また俳句ですか?いやだなぁ、やめてくださいよ。 あとで聞かされるこっちの身にもなってください」 歳三よりひと回り背の高いこの沖田総司は、へらへらと笑ながら、さらっと酷いことをいう。 「うるっせえな!!!お前にゃきかせねぇよ!!このクソガキ!!!」 ムキになって罵声をあびせる歳三に、総司は面白そうに笑う。 どっちが年上だか分かったものじゃない。 そんないつもの光景。 「土方さん、たまには道場に行きましょうよ!私、強くなったんですよ」 「はっ、ガキが何言ってやがる。てめぇは雑巾がけでもしてろや」 「酷いなぁ、大人気ない。」 そう言いながらも大して気に留めていない様子で、歳三をみる。 その顔は、苦笑から、何かを思いついたような明るい顔に変った。 「じゃあ!私と試合しましょうよ!!貴方が勝ったら、今日の掃除当番は私がやります。 負けたら、貴方が掃除当番ですからね」 とんでもない申し出に、歳三はあからさまに嫌そうな顔をした。 正直なところ、総司の腕前は知っている。 その腕前が、おそらく自分より上であることも。 けれど、自分よりも7つも年下のやつに負けるなんて、プライドが許さないのだ。 そんなことになったら、総司になんとからかわれるか…考えただけで恐ろしい。 総司だけじゃない、原田、永倉、藤堂は大爆笑するだろうし、源さん、山南さんは同情を含んだ目で笑うだろう。 …近藤さんにまで笑われたら…… 「ダメだ!!俺はそんな暇はねぇんだ!!」 とりあえず言い訳してみる。 「何言ってるんですか。いままで暇そうに俳句なんか作っちゃってたんでしょう」 「う、うるせえ!第一、ガキ相手にそんな勝負やってられっか!!」 「またガキって言いましたね…!!だったら勝負して勝てばいいでしょう!!」 もう風流なんて程遠い試衛館の縁側。 そんないつもの光景。 「おう、歳に総司。おめぇらそんなに元気をもてあましてるなら道場に来い。」 ひょっこりと顔を出したのは近藤勇。 「げっ、かっちゃん!!」 「近藤先生!!私も今土方さんと勝負しましょうって言ってたんですよ」 歳三にとって、タイミングの悪いところに現れてしまった。 近藤は、そうとも知らずににこにこと歳三を見た。 「そうか、歳。お前も少しは身体を動かしたほうがいいぞ、ほら、行ってこい」 「かっちゃん、俺はいいよ…!」 「土方さん、私に負けるのが怖いんだって」 抵抗してみるが、悪魔総司の一撃がはいる。 「!!!総司!!そんなんじゃねぇ!!」 「だったらやってみましょうよ、出来るでしょう」 「ちくしょー、やってやらぁ!!雑巾用意して待ってろ!!」 歳三は立ち上がると、さっさと道場に向かって走っていってしまった。 「大人気ないなぁ、歳も…」 苦笑する近藤。 「ほんっと、可愛い人ですよね」 心底面白そうにわらう総司。 そんないつもの光景。 試合の結果がどうなったかは、言うまでもない。 *** ___俺らしくもねぇ 休憩用の小さな部屋で、土方は呟いた。 ちょっと時間が空いたので、部屋に戻ったところ、どうやら昼寝をしてしまったらしい。 ここ最近は多摩にいた頃の夢なんて、滅多に見なかった。 なんだって、今更こんな夢を___ ふと時計を見やれば午後4時をさしていた。 嫌な予感がした。 何故だかは分からなかったが、寒気がした。 近藤が死んだ、と知らされたときのそれと、よく似ていた。 「土方さん」 声がして。 振り返りたくなかったが、身体が勝手に声のほうへと向いてしまう。 そこには総司がいた。 別れたときの、あのやせ細った姿ではなく。 無邪気な、笑みを浮かべて。 ああ___ お前も、か 「総司・・・」 「なんて顔してるんです、鬼の副長が呆れますよ」 懐かしい軽口をたたいて。 「土方さん、ひとつだけ、聞かせて」 「……なんだ」 「私が貴方にあげたもの、持ってますか?」 総司は、真剣な目をしていた。 直接、土方が総司から物をもらったことは無い。 けれど。 「……わかんねぇよ」 頬をつたう涙があたたかくて、泣いているのだと知った。 「……ありすぎて、わかんねぇよ……」 総司がいてくれて。 どれほど沢山の思い出をもらったことか。 土方の本当の優しさを知っている、数少ない友人。 鬼の副長としてやってこられたのも、彼がいてくれたからこそ、だ。 多摩にいた頃。 京都への上洛。 壬生浪士組。 そして、新選組___。 数え切れないほど、たくさんのものを貰った。 「よかった__」 総司は笑った。 その目にも、涙が伝う。 「忘れないで下さいね。全部。一つでもなくしたら、もう、からかってあげないから」 「…馬鹿やろう」 土方も、つられて微笑した。 「ありがとう」 総司はそう言って微笑むと、消えた。 「……ちくしょう、言い逃げしやがって…」 再び一人になった部屋で、土方は小さく呟いた。 流れてくる涙を、拭うことも忘れた。 5月31日のことだった____。 fin. [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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