1/1ページ目 蝦夷の雪は解け、桜が散り、木々は緑に染まった。 そんな景色を、何度見ただろう。 毎年同じ風景。 違うのは、その風景を君と見られないこと。 [五稜郭の夢 second story] 土方歳三は死んだ。 悲報は、戦っていた者たち全てに衝撃を与えた。 がむしゃらに後を追おうとする者。 もう駄目だと、逃げ出そうとする者。 敵将でさえ「これで戦争は終わった」と言った。 彼の力が、どれ程だったのかを改めて実感する。 新選組の隊士たちは、弁天台場に籠もっていた。 自分たちを助けに来ようとして撃たれたと、それを聞いた隊士たちは誰もが涙した。 誰もが、負けが見えたそのときから、土方が生き延びることをしないだろうということは分かっていた。 新選組の隊士たちは、篭城して最期まで戦うことを決めた。 憧れの土方がそうしたように、諦めずに最後まで意地を見せることを決めた。 降伏をすることにしよう、と言って大鳥が来た。 土方に代わり、新選組の隊長となった相馬主計は、大鳥に罵声を浴びせんほどの勢いで怒鳴った。 それは、新選組全体での意見である。 「何を言っているんですか!?最期まで戦うのが、武士と言うものでしょう!!」 普段は温厚な相馬が、ここまで激するのは珍しい。 まあ、無理もないことである。 降伏、というのは武士にとってあってはならないもの、と考えるからだ。 それでも大鳥はひるまなかった。 榎本が言ったからではない。 自分自身が、犠牲者を増やしたくないと思ったからでもない。 何より、土方の気持ちが分かったからだ。 あのとき、雪景色を眺めながら言った 「あいつらは、いいんだよ」 というあの言葉。 大鳥には最初は分からなかった。 何が、自分の言う通りなのか。 でも、答えは簡単なことだったのだ。 確かに、戦死した土方からすれば、わがままになるかも知れない。 「死んで欲しくない」 そう、思ってしまったのだろう。 今まで、沢山の人を失い続けてきた土方の最期の望みは、新選組が、戦死してなくならないこと。 これ以上、大事な仲間を失いたくない、という思い。 土方と違って、彼らは明治の世を生きる権利がある。 勿論土方に無いわけではないが、彼自身がそれを許さなかったのだから仕方が無い。 明治の世、というものを生きて、見届けて欲しいと思ったのだ。 自分たちが守ろうとした世界は消え、新しい世の中が始まる。 それを、”新しい時代を生きるもの”として生きるのだ。 死んでいった多くの仲間達の代わりに。 「新選組」という足かせに縛られ戦死するのでなく、それからの生き方を自由に選ばせてやりたい。 そして土方としては、皆に生きて欲しかったのだろう。 その思いは、大鳥が抱いていたものと同じだった。 「土方君は、君達の死を望んではいない」 大鳥は冷静に言った。 「君達は、生きるんだ。土方君が生きられなかった分、生きなければならない。」 「……」 「生きるのは、きっと大変なんだ。きっと、ここで戦死するよりも。けれど、土方君の望みを、よく考えてみて欲しい。」 新選組の、侍の世は終わる。 不器用な土方には出来なかったこと。 侍でしかあれなかった土方が、仲間に望んだこと。 「………っ」 泣いていた。 大鳥も。相馬も。 これで、僕の”陸軍奉行”としての役割は果たしたよ。 大鳥は、結果を聞くことなく本営に戻っていった。 それから10年。 新政府の一員として働く、旧幕府軍の姿がいくつも見られた。 世は移り変わり、日本は大きく変わった。 大鳥は、戊辰戦争のことについては多くを語ろうとしなかった。 ただ、あの時自分たちは懸命だった。 生きるために、自分たちの義のために、誰もが必死だったのだ。 自分が今していることは、土方はどう思うか、と時々考える。 人の生き方にはあまり干渉したがらない土方のことだから、特に文句も言わないだろう、と思うが。 いつか、また会えたときには、自分の生き方に自信をもっていようと思う。 きっと土方も分かるだろう。 こんな生き方もあるんだと。 それを、自分の人生をもって示すのだ。 「土方君、君が見たかった雪景色だよ」 一人、そっと呟いてみる。 今、大鳥はあのときの場所に来ていた。 あのときのように、岩に腰掛けて。 「君の故郷の石田村もいいが、たまにはこっちの景色も見にくるといい」 そう言って取り出したは一枚の写真。 蝦夷政府の幹部らが集まって撮影したものだった。 大鳥が受け取って、預かっていたものだ。 結局大鳥が他の人物に見せる前に、戦争は激しくなりそして幕をとじた。 もちろんそこには、大鳥も土方の姿もある。 そんな、この世でたった一枚の写真。 「餞別だ。持っていってくれるかい?」 そう言って写真を細かく破くと、大鳥はそれを風に預けた。 はらはらと風に舞うそれは、まるで雪のように、函館の町に散っていった。 fin. ★☆★☆★☆★ あとがき この小説をアップしたとき、沢山の方から「写真は、本当にあったのですか!?」って聞かれました。 …すいません、ありません。汗 黒蜜はうそつきですね…まぁ、こんなサイトやってるんだから、今更ですけどNE★←ひらきなおり [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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