土方本

■□五稜郭の夢〜second story〜□■
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蝦夷の雪は解け、桜が散り、木々は緑に染まった。

そんな景色を、何度見ただろう。

毎年同じ風景。

違うのは、その風景を君と見られないこと。


[五稜郭の夢 second story]



土方歳三は死んだ。

悲報は、戦っていた者たち全てに衝撃を与えた。

がむしゃらに後を追おうとする者。

もう駄目だと、逃げ出そうとする者。


敵将でさえ「これで戦争は終わった」と言った。

彼の力が、どれ程だったのかを改めて実感する。




新選組の隊士たちは、弁天台場に籠もっていた。

自分たちを助けに来ようとして撃たれたと、それを聞いた隊士たちは誰もが涙した。

誰もが、負けが見えたそのときから、土方が生き延びることをしないだろうということは分かっていた。


新選組の隊士たちは、篭城して最期まで戦うことを決めた。

憧れの土方がそうしたように、諦めずに最後まで意地を見せることを決めた。


降伏をすることにしよう、と言って大鳥が来た。

土方に代わり、新選組の隊長となった相馬主計は、大鳥に罵声を浴びせんほどの勢いで怒鳴った。

それは、新選組全体での意見である。

「何を言っているんですか!?最期まで戦うのが、武士と言うものでしょう!!」

普段は温厚な相馬が、ここまで激するのは珍しい。

まあ、無理もないことである。

降伏、というのは武士にとってあってはならないもの、と考えるからだ。


それでも大鳥はひるまなかった。

榎本が言ったからではない。

自分自身が、犠牲者を増やしたくないと思ったからでもない。

何より、土方の気持ちが分かったからだ。



あのとき、雪景色を眺めながら言った

「あいつらは、いいんだよ」

というあの言葉。


大鳥には最初は分からなかった。

何が、自分の言う通りなのか。



でも、答えは簡単なことだったのだ。

確かに、戦死した土方からすれば、わがままになるかも知れない。


「死んで欲しくない」


そう、思ってしまったのだろう。

今まで、沢山の人を失い続けてきた土方の最期の望みは、新選組が、戦死してなくならないこと。

これ以上、大事な仲間を失いたくない、という思い。



土方と違って、彼らは明治の世を生きる権利がある。

勿論土方に無いわけではないが、彼自身がそれを許さなかったのだから仕方が無い。


明治の世、というものを生きて、見届けて欲しいと思ったのだ。

自分たちが守ろうとした世界は消え、新しい世の中が始まる。

それを、”新しい時代を生きるもの”として生きるのだ。

死んでいった多くの仲間達の代わりに。

「新選組」という足かせに縛られ戦死するのでなく、それからの生き方を自由に選ばせてやりたい。

そして土方としては、皆に生きて欲しかったのだろう。



その思いは、大鳥が抱いていたものと同じだった。



「土方君は、君達の死を望んではいない」

大鳥は冷静に言った。

「君達は、生きるんだ。土方君が生きられなかった分、生きなければならない。」

「……」

「生きるのは、きっと大変なんだ。きっと、ここで戦死するよりも。けれど、土方君の望みを、よく考えてみて欲しい。」




新選組の、侍の世は終わる。

不器用な土方には出来なかったこと。

侍でしかあれなかった土方が、仲間に望んだこと。




「………っ」

泣いていた。

大鳥も。相馬も。



これで、僕の”陸軍奉行”としての役割は果たしたよ。


大鳥は、結果を聞くことなく本営に戻っていった。





それから10年。

新政府の一員として働く、旧幕府軍の姿がいくつも見られた。

世は移り変わり、日本は大きく変わった。


大鳥は、戊辰戦争のことについては多くを語ろうとしなかった。

ただ、あの時自分たちは懸命だった。

生きるために、自分たちの義のために、誰もが必死だったのだ。




自分が今していることは、土方はどう思うか、と時々考える。

人の生き方にはあまり干渉したがらない土方のことだから、特に文句も言わないだろう、と思うが。

いつか、また会えたときには、自分の生き方に自信をもっていようと思う。

きっと土方も分かるだろう。

こんな生き方もあるんだと。



それを、自分の人生をもって示すのだ。






「土方君、君が見たかった雪景色だよ」

一人、そっと呟いてみる。

今、大鳥はあのときの場所に来ていた。


あのときのように、岩に腰掛けて。


「君の故郷の石田村もいいが、たまにはこっちの景色も見にくるといい」



そう言って取り出したは一枚の写真。

蝦夷政府の幹部らが集まって撮影したものだった。

大鳥が受け取って、預かっていたものだ。

結局大鳥が他の人物に見せる前に、戦争は激しくなりそして幕をとじた。


もちろんそこには、大鳥も土方の姿もある。

そんな、この世でたった一枚の写真。



「餞別だ。持っていってくれるかい?」


そう言って写真を細かく破くと、大鳥はそれを風に預けた。

はらはらと風に舞うそれは、まるで雪のように、函館の町に散っていった。


fin.



★☆★☆★☆★

あとがき

この小説をアップしたとき、沢山の方から「写真は、本当にあったのですか!?」って聞かれました。
…すいません、ありません。汗

黒蜜はうそつきですね…まぁ、こんなサイトやってるんだから、今更ですけどNE★←ひらきなおり

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