土方本

■□五稜郭の夢〜first story〜□■
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今日の蝦夷の天気は久しぶりに良く、外は日が射していて穏やかだった。

しかし、この五稜郭内には、穏やかでない男が二人。

大体2時間程度で終了する予定だった本日の軍議は、この二人のせいで倍時間かかった。



[五稜郭の夢 first story]



「土方君っ!!」

軍議が終わって早々に引き上げた土方を、先ほどと変わらぬ怒りのこもった口調で大鳥が呼び止める。

それを背中で受け止めた土方は、眉間の皺をさらに一本増やして声の主に振り返る。

「なんですか、軍議はもう終わったはずですよ、大鳥さん」

「ぼ、僕の言いたい事はまだ終わっていないぞ!!君一人だけ言いたい事を言って終わりなんて卑怯じゃないか!!」

大鳥のあまりの子供っぽさに、土方は肩を竦める。

今までこんな奴と張り合ってきたのかとおもうと、むしろ情けなくなった。

廊下での怒鳴り声に、周囲の兵士達はそろって動きを止め、彼らの様子を伺っている。

こんな中で言い争うようなことはしたくなかった。

「大鳥さん、いい加減に…」

「よし!!外へ出よう」

「……は?」

土方の言いたい事を察したのか、それとも単なる思い付きであるのか。

呆然とする土方を置いて、大鳥はさっさと玄関口へ向かう。

思わず、わけもわからぬまま土方も後についた。




「うん、今日は気持ちがいい。土方君もこっちで座ったらどうだい??」

日の光で珍しく乾いた石の上に腰掛けた大鳥は、同様に座れる石を探すと土方を呼んだ。

いや、俺はいい。と不機嫌そうなまま土方は答え、大鳥の斜め前あたりに立った。

「で、言いてぇことってのは何なんだ。」

「いつもと同じさ。君のやり方は強引すぎる」

真剣な表情に戻った大鳥は、土方の目をじっと見つめたままそらそうとしない。

対する土方も、粘ってはみたものの、一向にそらそうとしない大鳥に負け、下を向いた。

「だったら俺もいつもと同じだ。俺は俺のやりたいようにやる。少なくとも手を抜いて負けるようなことはしねぇ」

沈黙になった。

二人の考えは根本的に違うのだ。

理論派の大鳥に対し、土方派実践派だ。

だから衝突は珍しいことではないどころか、最近では五稜郭名物とまで言われる始末である。



大鳥は一つため息をつくと、真剣な表情のまま、土方に言った。

「では、質問を変えるか。土方君、君はこの戦争が終わったらどうするんだ?」

「……終わるってぇのは負けるってことか?」

「違う。勝ったとしても負けるとしても、その後のことを聞いているんだよ。」


土方は困惑した。

自分は、もはやこの戦争が勝てるとは思っていない。

それは大鳥だって同じであろう。

ただ、少しでも長く、希望を捨てずに戦うのだ。



「僕はね、みちや子供達に会いたいんだ。」

何も答えない土方の代わりに、大鳥が続けた。

「そうして、殺しあわずに、平和に生きる。」

そう言うその瞳は本気だった。

大鳥が、優しいのは十分に知っている。

犠牲者を一人でも減らすために、あれこれと考えていることを知っている。

きっと、こんな世に最も似合わない男なんだろう。


「あんたは、…降伏するつもりなのか」

「違う。勝つために僕は戦っている。でも、無駄な死だけは、一人でも多くして欲しくない。」

大鳥の真意が読み取れない。

小首をかしげて怪訝そうな顔をする土方に、大鳥はなおも言葉を続ける。


「生きるために、人は戦うんじゃないのか?」

「………」



胸が痛んだ。

生きるために戦い、死んでいった仲間達を何人も見てきた。

「俺は…降伏するわけにはいかない」

「それは、どうしてだ」

「近藤さんに合わせる顔がねえ」


また、近藤か。と思った。

死してなお、土方の生き方を縛る近藤という男は、どんなに土方にとって大きな存在なのだろう。

立派な人物なのだろう。

だが同時に、土方の生きる道までをも塞ぐこの男を、少しだけ憎いと思った。


「だったら、死ぬつもりか」


「勝ち続ければいいのさ」


土方のほうも、瞳は真剣そのものだった。

大鳥は、唖然とした。

蝦夷共和国が滅びるのは、もう時間の問題だ。

”潔く散り、本当の武士がどういうものか見せてやろう”と、周囲の兵士たちが言うのを、何度も耳にして。

そのたびに大鳥は、自分たちの戦いに疑問を感じてきた。

滅びの美学なんて、嫌いだった。



てっきり、土方はその類の人間かと思ってきた。

いつも、無謀な作戦ばかりをたて、死急いでいるとしか思えなかったから。


土方自身、最初はそうだったのかも知れない。

自分の道を照らしてきた”近藤勇”がいなくなり、生きる希望を失った。



しかし、土方は走ったのだ。

近藤の死から1年近く、今日この日まで土方は戦うことを止めなかった。

それは、死ぬためでなく、生きるための戦いであった。

大鳥の言うとおり、である。



呆けたまま土方を見る大鳥を見て、土方は少しいらついたような表情をする。

「なんだよ、俺の言うことがそんなに可笑しいか。」

「いや…、可笑しくないよ。それじゃあ、勝つしかないな。」

「ああ。負けることを考えたら、負けちまうんだよ」


それは、戦に負ける、というよりも、自分に負ける、ということなのだろう。



「大鳥さん、あんたが思ってることは良く分かってる。俺はあんたの望むようには出来ねえかもしれねえが、少なくとも簡単に死のうとは思わねえよ」

「そうか…君の隊の隊士たちが君についていく気持ちが分かったような気がするな。皆も、同じ気持ちでいるのだろうか」


「あいつらは、いいんだよ」

土方がふっ、と笑った。


「俺のわがまま、だな」


大鳥には、よく意味が分からなかった。

よほど変な顔をしていたのだろうか、土方は噴出しそうなのを堪えて、もう一度笑う。


「あんたの言うとおりだよ、大鳥さん」



この意味が大鳥に分かるのは、土方が戦死した後になる。





「…この景色を、もう一度見てぇな」

「………?」


ふいに土方が言った言葉に、大鳥はきょとんとした。

土方が呆れたふうに言う。

「あんたが言ったことだよ。この戦争が終わったら、もう一度この雪景色を見る。」

「ああ……そうだな。そのときは僕も一緒に見たいな」

「いいよ、邪魔だから」

「酷いな君は!そんなだから素直じゃないって言われるんだ!」

「ばっ…言われねえよ鳥あたま!」







きっと。

それは夢になる。

頭では分かっているんだ。そんな日が来ないこと。


だけど。

子供みたいでもいいから。

馬鹿だって言われてもいいから。



もう少し、その日のことを考えさせてくれないか。

今日のような晴れ渡った雪景色を。

蝦夷共和国の雪景色を。

くだらない話をしながら、ゆっくり見られる日を。


fin.



★☆★☆★☆★

second storyに続きます〜。
え?もういいって??
ええ、私ももういいと思います。笑

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