1/1ページ目 尺八名人 蝦夷共和国は平和だった。 真冬は戦も起こることはなく、ここ数日は穏やかなひと時を過ごすことが出来ていたのだ。 そしてここに妙に浮かれた男が一人。 男は、なにやら細長い棒を手に持っていた。 気を抜くと顔が緩みそうで、わざと顔に力を入れてみれば、彼の様子を見た者たちは 「奉行並はなにやらご立腹のようだ」 「また大鳥殿と喧嘩でもしたのだろうか」 と噂を立てる始末。 それでも、今日の陸軍奉行並・土方歳三は上機嫌だった。 手にした竹筒をちらちらと見ては、廊下を早足に歩き自室へ向う。 部屋へ入り、ドアを閉めると、すぐさまその場で竹筒を両手で持ち、深呼吸を一つ… と。 「あれ〜??歳さん、にやけちゃってどうしたんだえ??」 「__!!!?」 誰も居ないはずの部屋から声が聞こえた。 しかもここに居るはずのない声が。 「伊庭っ!?なんでここに!?って、おめぇ俺のベッドからどけ!!!」 声の主、遊撃隊の伊庭八郎は、土方のベッドから身体を起こしてにやにやしている。 土方は、ベッドに隠れて見えはしなかったものの、人の気配すら感じられなかったほど自分が浮かれていたことに、改めて気づいた。 おまけに、その姿を目の前の男は見ていたのだ。 恥ずかしいことこの上ない。 「やー、カツタロさんから榎本さんに書類を渡すよう頼まれたんでねぇ。こっちへ来たはいいが、また雪が激しくなっちまったんで帰れなくなちまった。眠かったけどおいらの部屋はここには無いから、ちょっくらあんたの部屋を拝借してたんだよ」 何を怒っているのか、とでも言うようにへらへらと言ってのける。 悪いが、そうとうに迷惑だ。笑 「ところで歳さん、そいつは尺八じゃねぇかい。どうしたんだえ?」 伊庭が、土方の手元に目をやった。 手には、先ほど借りてきたばかりの尺八が握られていたのだ。 「あ、ああ。今日菊池さんから借りたんだ。」 伊庭の勢いに押されて、説教の一つも出来ないうちに尺八の話をふられので、土方もタイミングを失った。 尺八話は、土方も正直誰かに話したくて仕方なかったので、今回のことは多めに見ることとする。 菊池、というのは五稜郭に木炭を納品に来る人物である。 彼は尺八の名人で、土方は今日菊池から吹き方を教わった。 「すげぇだろ、あの人俺見て”才能あると思う”ってよぉ」 日頃の陸軍奉行並とは思えない無邪気な様子に、伊庭も頬をゆるませた。 彼のこんな一面を知らない隊士たちは、もったいないと思う。 「で?歳さん、吹いてみたのかえ?」 「ああ、さっき菊池さんに教わりながら一度吹いてみた。やってみるか?」 早く吹きたくてたまらない、というように土方が言う。 伊庭はどっちかといえば吹き「出し」たかったが。笑 早速土方は尺八を吹いてみる。 妙に緊張した姿が可愛らしい。 息を吸い込み、ゆっくりと吐く。 ボォ〜〜〜 間のぬけたような音が廊下まで響いた。 尺八は、力の加減と息の向きが難しい。 「あ、あれ??」 目の前で腹を抱えつつ笑いをこらえる友人をみて、土方は赤面した。 音が少々(?)可笑しいのは自分でも分かっていたが、恥ずかしさと笑われたイラつきで、認めたくない。 「なんだよ、おかしいのか!?てめぇ、笑うなら笑えよ!!分かりやすくこらえてんじゃねぇ!!」 もう一度、もう一度と繰り返し吹いてみる。 そのたびに、尺八は本来の響きとは程遠い、気のぬけた音を発するばかりで。 ムキになって吹く土方を、伊庭は噴出すのを堪えつつ見守ることとなった。 声は出さずに。 その頃。 「本多〜、頼むよ。さっきから廊下で変な音がするんだって」 「もう、大鳥さん!そんなことで僕を呼ばないで下さいよ!!」 本多の後ろに隠れて廊下を指差すのは、土方の上司、陸軍奉行の大鳥圭介。 伝習隊の本多幸七郎は、呆れながら大鳥を見た。 まったく、この男は情けない。 だが、放って置けないオーラが出ているせいなのか、いつもこうして彼のくだらない(笑)悩みを聞くことになるのだ。 本多は、大鳥に後ろから押されるようにして廊下を進んだ。 そして、ある部屋に近づくに連れてその「変な音」は大きくなった。 「…大鳥さん、引っ付かないで。にしても、何でしょうね??不気味な音だなぁ〜」 「だろう?ここって、もとは墓か何かだったんじゃないのかい?ゆゆゆ、幽霊とか…」 忍び足で、ゆっくりと音のほうへ近づく。 緊張のせいか、声も極力小さくなった。 そして、音の発信源の前… 「ひ、土方君の部屋…?」 小声のまま、大鳥がささやく。 本多も、何がなにやら分からない表情で。 とりあえず二人はドアノブに手を掛けた。 せーの、でドアを開ける。 バンッ!! 「_____うおっ!!?って、大鳥さん?本多さんまで…」 「あははは!!!歳さん気づかなかったのかい?あー、駄目だ、おいら腹が痛くて死んじまうよ」 「。。。。。。。。」 部屋には、尺八を手にした土方と、もう限界だと言わんばかりに笑い転げる伊庭。 どうやら伊庭は二人の足音と声に気づいて、あえて口を噤んでいたらしい。 「___土方くんだったのか。ぼ、僕はてっきり幽霊だと…」 大鳥が脱力したように言った。 だが原因がわかれば怖くない。 次の瞬間、大鳥は言ってはならないことを口にしてしまった。 「土方君にも苦手なものがあったんだね、それは尺八の音じゃないよなぁ〜」 ・・・・怒。 土方がその言葉を聞き流すはずも無く。 「なんだと…!?俺の尺八が下手だと…ほぉ〜う」 やばいぞ、眉間にシワが。 しまった、と思ったときには遅かった。 「上等じゃねぇかコラー!!!!!」 「ぎゃーーーーー!!!た、助けて本多ーーーーー!!」 「…じゃ、私はコレで…」 「本多さん、帰っちまうのかい?これから面白いもんが見れるさね」 「伊庭ーーー!!てめぇも分かってたなら言えよ!!笑ってんじゃねぇ!!!!」 怒る土方。 逃げる鳥。 呆れる本多に笑う伊庭。 五稜郭の一日は、今日も平和に終わった。 因みに。 その後初めて尺八を吹いてみた伊庭が、ものすごく上手く音を出してしまったもんだから、土方の怒りは頂点に達した。 その怒りの矛先は、大鳥圭介に向けられるのであった… fin. ★☆★☆★☆★ あとがき? 切腹します、どうぞ遠慮なくお申し付け下さいませ。 できれば介錯は土方さんあたりが…(殴) [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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