土方本

■□たまには昔話でも□■
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そこの方、ずいぶんと疲れていらっしゃるようですね。

何があるのかは存じませんが、そんな急ぐことはございませんよ。

少しここで休まれていってはいかがです?

お茶でも飲みながら、年寄りの話にちょっとばかりお付き合いくださいな。


<たまには昔話でも>


私にはね、歳の離れた弟がいたんですよ。

そりゃもう腕白者で、姿が見当たらないと思えばいつも悪さばかりしてましてねぇ。

何をやっても長続きしやしない。

え、将来?

心配でしたとも。でもあの子のことです。何かしでかすんじゃないかって思ってたんですよ。

思ったとおり、あの子は…

あらいけない、私がお話したいのは「何かしでかす」前のことなんですよ。


あの子ったら、奉公に出してもいつの間にか帰ってきちゃうし、

何があったのか知りませんけど、喧嘩してしょっちゅうぼろぼろで帰ってきましてね。


でもね、そんなあの子が兄をみて俳句を作り始めましたの。

兄は俳句が得意でしてねえ。

弟の句?ええ、今も残ってますよ。

__とんでもない、姉の私から見たってお世辞にも上手いとはいえやしません。

それでもね、正直な句ですよ、私は好きです。

そんな中に一つ、頭から離れない句がありますの。

お聞きになりたい??


「願うこと あるかもしらず 火取虫」


意味が分からない?

まぁ、そうあせらないで下さいな。

火取虫ってご存知?

そうねえ、蛾みたいな虫かしら。

火取虫は、真っ赤な炎を見ると近寄って来るの。

そして炎に焼かれて死んでしまう、そういう習性をもった虫なんですよ。

歳さん…あ、いえ、歳三って言うんですけどね、私の弟。

歳さんがある日火取虫をみてそんな句を詠んだそうなんです。

その当時私は歳さんが句を読んでるなんて知りませんでしたけれどもねぇ…


自ら火の中に飛び込んで死ぬなんて、普通に考えたら愚かなことじゃないですか。

でも、その行為も、火取虫にしたら何かを願った上での意味のある行為なのかも知れないって…

面白いこと考え付く子でしょう。


_え?どうして頭から離れないのかって?


そうねえ、どこからお話しましょうかしら。

あの子のお友達にね、惣次郎さんて方がいらっしゃってねぇ。

あら、違ったわ。大きくなってからは総司って名乗ってたかしら。

惣ちゃんが、病気になって…

そう、肺結核…。もう治らないって分かってた…


それで、私がお見舞いにあの子の句集を持って行ったことがあるの。

惣ちゃん、目を細めながら読んでたわ…

懐かしいなぁなんて言ってたから、昔から句を詠んでたのを知ってたんでしょうね。

そして火取虫の句のところで私を見て言ったの


「この句、土方さんみたいな句でしょう」って。


そりゃ、私には最初意味が分かりませんでしたよ。

そうしたら急に真面目な顔になって言うんです。

「土方さんは、きっとどこまでも走り続けますよ。どんなに周りから見放されようとも、世間が非難しようとも…たった一人になったってあの人は戦い続けます。あの人の義にしたがって…」


もう涙が止まりませんでしたよ。

どんな気持ちで戦ってたんでしょうねぇ。いっそ、全てを投げ出して戦うことを止めていたほうが楽だったでしょうに…

__放棄したからって助かりゃしませんよ。だけど、戦い続けるのはそれより辛いってことです。


惣ちゃんもきっとわかってたんでしょうね。

あの方の言うとおりになりましたよ。

あの子は逝ってしまった…

聞いた話なんですけどね、明らかに不利な状況の中に突っ込んでいったって…

愚かな奴だとお思いでしょう?

そしてその後すぐに戦は終結したんです。ええ、負けたんですよ。

世に言う「戊辰戦争」ってやつです。


__こんなことを言ってしまうと自慢になってしまいますが…まぁ年寄りの戯言と思って聞いて下さいまし。

あの子、能力はあったんですよ。

もし歳さんも降伏していたら、死ぬことは無かったでしょうって誰かが言っていましたねぇ。

あの能力は、殺すには惜しいって…

ふふ、でも…きっとあの子自身が許さなかったでしょうよ。

惣ちゃんもよく言ってましたけれど…「不器用で頑固な人」ですからね。



__お客さん、似てるって分かりました?


そうなんですよ、私にはその句が歳さんの姿と重なるんです。

死ぬって分かっていながらも尚戦ったんですよ。

命より大切な守るべきもの…

私の短い人生では見つかりませんでしたが、あの子はもっと短い人生で出会ってしまったんです。

あの子にとって「新撰組」はどれほど大きなものだったんでしょうねぇ。


あら、新撰組をご存知?

そうですか。こんな時がたっても残っているんですか…

それはまあ…歳さんも嬉しいでしょうねえ。



あらあら、私ったらおしゃべりが過ぎましたわ。

すみませんねぇ、こんな年寄りの話に付き合ってもらって…


__え?時代が合わない??

「弟」が戊辰戦争にいるなんておかしい?

まぁまぁ、細かいことは気にしないでくださいまし。

ここは夢の中と思ってくださればいいんです。

この山道をずうっと下れば町にでられますよ。貴方は夢をみていたんです。


私ですか?

そうですねえ、場所を変えて旅の方を待っていましょうかねえ。

またどこかでお会いするかもしれません。

そうしたらまた、お茶の一杯でも飲みながら昔話でも聞いてくださいな。


fin.



★☆★☆★☆★

あとがき

すっごい悩んだんですよ、誰に語ってもらうか。
結局は姉のおのぶさんになったんですが、彼女は歳三さんが無くなってから病気がちになり、明治10年47歳にてこの世を去っています。

これじゃ語るにしては早すぎるなぁ…ってことでちょっと不思議なお話にしてみました。 語っている時代はご想像にお任せします。現代でも昭和期でも大正でも。

ストーリーではのぶさんはおばあさんになっています。つまり、私の設定ではこれはのぶさんの姿ではありません。おばあさんの姿を借りて、かなり遠い昔話をしに現れた夢の空間の話。
そんな風に捉えていただけるといいかと。

さて、今回のテーマ「願うこと あるかもしらず 火取虫」ですが。
個人的に結構好きです。面白い発想をするんだなぁって。普通目にも留めないじゃないですかそんな虫。
それをこんなふうに捉えるとはさすが土方さん(笑)だなぁって。ストーリーとは関係ありませんが、この句には土方さんの優しさが隠れているなぁって感じるんですよね。

では、私もおしゃべりが過ぎますのでこの辺で退散したいと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました!

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